本田八夏

MagicBar 猪虎亭 マスターのブログ

チャルメラ

まだ夏本番ではないが、夏といえばこわい話し。
少し早いが、早いなりにプチこわいノンフィクション話しをご紹介しよう。


22歳のとき。

したがって26年前の話しだ。

俺の住んでいたアパートは、大きな道路が近いものの、少しいりくんだ地形で車などは行き止まり。
人かチャリなら東西に抜けていけるどんつきにあった。

真夜中2時。
仕事が終わりアパートでぼーっとしていると、遠くか近くかよくわからないが

ピャララ~ララ ピャラララララ~♪ と聞こえてきた。


おっ!風情があるね~と思いながら窓を開けたらわりと近くから聞こえる。

でもその頃、超ド貧乏だった俺は、夜食にラーメンなんてとんでもない!
職場のまかないで次の日まで我慢しなければいけない立場だった。
だけどそのチャルメラは、人の持つ欲求!その中でも生きていくことに不可欠な食欲を頂点にまで引き上げるほどの威力を充分に発揮し、屈強な男の精神を根こそぎガクガクにさせるものだった。

この誘惑の激しさは、ご経験者のあなたさまならわかっていただけることかと存じ上げます。


手元の金を確かめたら 740円あった。 ラーメンは食える。
でも今食ってしまったら、明日からの生活に困る。歯磨き粉も買わなくてはならない。

我慢!我慢!我慢! 今は我慢しかない!

その様はまるで、耳なし芳一が全身全霊を込めて悪霊が通り過ぎるのを待つかのごとく俺は布団にくるまり両の耳を手で押さえ、チャルメラの魔力から身を守った。


夜が明けた!

勝った!

さしたる喜びもなく、むしろ食いたいという願望が増してはいたが、、、勝ったことにした。
そして職場に向かい今日も一日がんばった。
はらぺこでアパートに帰った。さすがの22歳。夜10時にまかないを食べたが夜中2時には腹ぺこになる。


ピャララ~ララ ピャラララララ~♪

き、き、聞こえてきた!

我慢できない!
腹も減っていたし俺は外に出て、もう一本向こうの道まで出てみた。するとラーメン人力車がなんとも心に染み入る色合いで提灯をゆらゆら。


く~!!!!!!!! ><

今手元に530円!お給料まであと10日!

目の前のあかりが人生初の拷問 ゆらゆら提灯地獄になる!

おやっさんがちらっとこっちを見て微笑んだ。だが、、、、、

がまん、、、、した。

三日目、四日目とゆらゆら地獄は続いた! そして五日目!

なんとこの日は職場が予約でいっぱいの大忙しのため、まかないが夜8時に出たのであった。
しかも追い討ちをかけるかのごとく終わったのが深夜3時。腹が減りまくる><



奇跡がおこった!

職場の店長が、 よくがんばったコンビニで弁当でも買え!と言って千円くれたのだ!

あ、ありがとうございます!
深々と頭を下げて俺は猛烈な勢いでアパートに帰った。

いてくれよ!いてくれよ! 心に念じるのはその言葉だけ。一心不乱とはこのことを言うのだろう。

アパートにつく前にいつもの場所を通ったがいない!!!!

首をうなだれてコンビにへ行こうとしたその時、どこかから聞こえる!
俺のアパートのほうだ!

なんとラーメン屋が行き止まりの俺のアパート前にいる。なぜだろう?不思議な話だ。
まあいい。これもなにかの縁。
俺はチャリをとめて迷うことなくすぐさま行動に出た。
待ちに待ったご褒美。歓喜の瞬間である!



『おやっさん!ラーメンひとつ!』

と俺はさも親しげに好意と期待感むきだしでわりと大きめの声で言った!

おやっさんは

『まいど!^^おおきに! すぐやりまっさ。』

3~4分ほど待っただろうか

おやっさんは作ってる間に話しをしてくれた。

『なんかわからないけど、今日初めてこの路地に入った。 いつもは大通りだけどもう店じまいの時間が近づき、今日は暇だったので一杯でも売ろうと頑張ったらこの路地に来たんですわ!』

俺はわけもわからず じ~ん と来た。

そうだったんですかと言葉少なに涙ぐみながら答えた俺。
いよいよ俺の前にそれが来た!

『はいよ! ラーメンお待ち!』

袖で涙をぬぐって箸を割り、ありがたくいただいた!




くそまっずい!!!


なんじゃこりゃー!

水だ! スープちゃう! みず! ちょっと醤油入ってるだけの水。

これに比べたら提灯地獄なんて子供のお遊戯やわ!モノ本の地獄!
よー考えたらいつでもチャルメラ吹いとるのだから客がいっこもいないのだ!

俺は22歳の若さで人生の厳しさを知った。

おやっさん人生をありがとう!